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31: 名無し百物語 2014/12/04(木) 10:13:59.13 ID:D5uIbgsG.net
「ゴースト職人」 

かなり前に某テレビ局の下請けで映像編集の仕事をしていた。 
当時の俺はyoutubeやニコニコに友達がつくったボカロ曲と絵を編集した動画をUPしていたんだけど、テレビ業界で働いている親戚のおじさんに作品を見せたら、センスがあるとほめられて映像編集のバイトを紹介してもらえた。 

下請けの小さな会社だったから自分の名前が売れるようなことはなかったし給料もやすかったけど、朝から晩まで好きなことをして飯が食えるんだから文句をいったら罰があたると思って、ガムシャラに働いていた。 

働き始めてすぐのころはローカル番組のBGMやテロップ入れ、カットなどを延々やらされていたけど、一年ほど経つとゴールデン番組の編集をまかされるようになっていた。 

誰もが知る有名なバラエティー番組の編集を自分がやっているというのは、この上なく優越感に浸ることができる名誉だった。 

だけど、テレビ業界というのは華々しさだけでは成り立たない。一般人には知られてはいけない暗部がある。 
ある日俺は職場で社長に呼び出された。社長は俺に新しい仕事をしてほしいという。 

働き始めて二年ほど経って会社で請け負っている仕事のほとんどを把握し、一人でこなせるようになったと自負していた俺は、まだやったことのない仕事があったのかと嬉しくなった。 

未知の仕事にチャレンジできる喜びで一杯の俺とは対照的に、後ろめたそうな表情でうつむく社長は言った。 
「心霊映像を作ってくれないか」


32: 名無し百物語 2014/12/04(木) 10:59:35.81 ID:D5uIbgsG.net
視聴者から投稿されたという名目で集まった短い心霊映像をランキング形式で見せていく心霊番組がある。

まぁある程度大人になった人ならわかると思うが、あの心霊映像の約10割、つまり全部が作り物のフェイク映像なんだ。

素人が自作してネット上にあげていたものを拝借した映像、レンタルビデオ店に置いてあるあまり知られていない心霊映像集から拝借した映像、過去に放送された中から人気があるのを拾ってきた映像などで構成されているんだが、

これらの既出映像だけで番組を作ってしまうと新鮮味がない。そこで完全新作の心霊映像を数本ほど用意するのだが、この仕事を今回やるはめになったのが俺というわけだ。

心霊映像を作るなんて死者への冒涜だし、本物の映像だと信じ込んでいる視聴者をだますことになるし、はじめのうちは罪悪感が重くのしかかった。

しかし、数本ほど映像を作り終えたころには、この仕事を心から楽しんでいる自分に気づいた。
自分の作った心霊映像をみて心底おびえる子供たちや、絶叫する大の大人のリアクションをみて、人の感情をこんなにも動かすことができるなんて、これまでの仕事ではなかったことだと感じた。

編集はほとんどが裏方の仕事だ。いつも映像の中心は芸能人たちで、彼らをより派手にわかりやすく楽しく視聴者に伝えるために働くのが俺たち編集の人間。俺たちがどんなに頑張っても評価されるのは芸能人だけ。わかりきっていたことだし納得したうえで仕事をこなしてきた。

だけど心のどこかで、自分の仕事を認めてもらいたいという欲があったんだろう。
その欲が心霊映像を作ることで満たされたのだ。心霊映像は自分の編集技術で生み出された幽霊が主役。
つまり俺が主役ってことだ。

俺は毎年夏になると身の毛もよだつ恐怖映像を何本も作り続けた。
心霊映像を作り始めて3年ほど経ったとき、それなりに名の売れたゴースト職人になっていた。
そんなある日、不可解な出来事が突然はじまった。

33: 名無し百物語 2014/12/04(木) 12:16:38.72 ID:D5uIbgsG.net
職場でいつものように仕事をこなしていると携帯が鳴った。
電話をかけてきたのは高校時代からの友達で、今でもよく飲みにいく堀野だった。

「どうした?この前みんなで飯食いに行ったぶりだな。元気か?」
「お前のせいで・・・お前のせいで・・・彩が・・・彩があああああああ・・・・ううう・・・うっ・・・」

堀野はひどく取り乱していて普段の陽気な雰囲気が一切なくなっていた。
「彩が・・・車に・・・はね・・・られたんだ・・・・昨日」

俺は絶句した。なんて声をかけてやればいいのかわからなかった。
堀野の嗚咽だけが長い間携帯から聞こえていた。

「足をな・・きらなきゃいけなくてさ・・・彩もう・・・一生まともに歩けないんだよ・・・」
俺はハッとなった。堀野もきっと同じ考えが脳裏をよぎったに違いない。だから俺に
電話をかけてきたんだ。

「お前言ったよな・・・?偽物だって。本当にそうなのか?」
「彩ちゃんのことは気の毒だけどさ、本物のはずがないだろ。どういう映像にするのか一緒に
 飲みながら考えたよな?本物の霊なんているわけないだろ」

去年のクリスマスに堀野を含めた高校のときの旧友たちと飲んでいて、俺の仕事の話になった。最近は心霊映像を作ったりしてるんだぜと、酒の手伝いもあって軽はずみに喋ったら、出演させてくれと何人かに冗談半分で頼まれた。

34: 名無し百物語 2014/12/04(木) 12:17:41.22 ID:D5uIbgsG.net
友達だから出演料も払わなくて済むし、テレビ関係の仕事をしている自分をアピールできるし、一石二鳥だと思って手始めに堀野に声をかけた。
堀野は飛び上がって喜び、どんな心霊映像にするのか飲みながら打ち合わせをした。

心霊映像のシチュエーションはこうだ。堀野の娘の誕生日をホームビデオで撮影していると嫁の彩の太ももにからみつく謎の手が映る。

この手は、近くの交差点で事故で亡くなったマラソンランナーの、まだ走りたかったという強い想いが他人の足をうらやみ、欲しているあかしなのだ。

プロの俺からすればありがちな設定なのだが、自分の意見が反映されているせいか堀野はとても気に入ってくれて、撮影の際には過剰と思えるほど協力してくれた。
テレビ業界の仕事を高位なものだと感じ、ありがたく思う堀野をみて、昔の自分を思い出し懐かしくなりつつ撮影したのを憶えている。

堀野に詳しく話を聞くと堀野の嫁、彩ちゃんが失ったのは右足太股から下だった。
俺が作った心霊映像は彩ちゃんの太股付近を黒くて細い手がからみつくように触っていた。

まさか・・・偶然だろう。たまたまだ。霊なんているわけがない。
何度も何度も自分に言い聞かせてみるが不安は一向に消える気配を見せない。

俺は堀野との通話を終わらせて、すぐ石坂に電話をかけた。
石坂は堀野と同じ高校時代の旧友で、俺は堀野と作ったものとは別の心霊映像を石坂と作っていた。
もし堀野の嫁に起こった事故が心霊映像のせいだというのなら、同じように心霊映像を撮った
石坂にだって何か起こっているはずだ。

耳にあてた携帯からコール音が鳴っている間、石坂と撮った心霊映像の内容を思い出そうとした。
しかしなかなか思い出せない。それにしてもこんなにかけているのになんで電話にでない?
なにしてるんだよ石坂・・・と、軽く苛立ったとき俺は石坂がなぜ電話に出られないのか、理由がわかった気がした。

携帯ではなく、石坂の実家に電話をかけると、石坂の母が出て石坂が昨日亡くなったことを教えてくれた。
そうだった。石坂と撮った心霊映像は水死した女子高生の霊が石坂に取り付いているというシチュエーションだった。

35: 名無し百物語 2014/12/04(木) 12:50:34.81 ID:D5uIbgsG.net
生き霊という言葉を聞いたことがあるだろう。
死んでいない人間が憎悪や嫉妬を募らせることで霊的な物質を生み出すことなのだが、

俺は熱心に心霊映像を作り続け、霊のことを考え続けた結果、生き霊と似た性質のものを生み出せるようになったのかもしれない。

俺が作った心霊映像の霊は時が経つと本当に存在するようになる。
生み出された霊は、設定が完全に反映されて人を呪い、最悪殺してしまうのだ。

これまで俺の作った心霊映像に出演してくれた出演者に片っ端から連絡をとっていくと、映像の通りに死んだ人間が数名いた。死んではいないが映像で示唆されていた不幸に見舞われた人間は山ほどいた。

俺は恐ろしくなって仕事から足を洗うことにした。
もう誰も不幸にさせてはいけない。霊を商売にするなんてやってはいけないことだったんだ。

もっと早く気づくべきだった。
俺は心霊映像に、家族や親戚、友達や彼女まで出演させていたんだ。
彼らは時間が経つごとに一人ずつ亡くなってる。映像で示唆された通りの死に方で。

みんなに謝りたくて仕方ない。だけどこんなこと誰も信じてくれないし、許してもくれないだろう。
名のある霊能力者に頼んでもお手上げだった。
作った映像を全部破棄しても駄目だった。

だから俺はもう一本だけ心霊映像を作ることにした。
その心霊映像の登場人物は俺1人だ。
必死にパソコンに向かってタイプしている様子が映る。
タイプの内容はこれまで犯してきた罪を告白するものだ。

俺が書き込みを終えると、背後から何百という数の俺のせいで呪い殺された人たちの霊がゆっくりと忍び寄ってくるシチュエーションになっている。
みんな、本当にごめんなさい。

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