081031-enoken

590: 本当にあった怖い名無し@\(^o^)/ 2014/05/14(水) 19:56:50.18 ID:T3uhbFD4I.net
田舎の話を書く。 
小さい頃住んでた田舎の公園に、よく紙芝居屋が来ていた。 
高齢で、60前後に見えた。 

昭和の終わりにもなって紙芝居ってのもなかなかの話だった。 
レトロブームが来る前のことで、酔狂なひとが趣味でやっているのでもないらしかった。 
もう、昭和30年代からずっとやってます、って感じ。聞いたわけじゃなくて、ずっと通ってたイメージだけど。 
そのじいさんは毎週公園にきて、ふつうに紙芝居をやっていった。 
システムも往時と同じ、飴を買ったら見せてもらえるってやつ。 

じいさんは仕事で来ているわけだから、紙芝居のあとに自分から子供と遊んだりはしなかったが、紙芝居に慣れていない今のガキたちが興味津々に紙芝居のことを質問したりすると、いつまででも喋ってくれた。 
そして次第に自分の昔話を始めるんだ。年寄りの話なんてつまらない上に毎回おんなじような話だ。 けどじいさんが喋るたびに同じ話だから、おれ含めガキ共はそれをよくよく覚えていた。 

話はだいたいこんなものだ。 
じいさんが若い頃にはテレビがなかった。 
子供には紙芝居があったけど、少し大人になったやつは、芝居を見に行った。 
東京の浅草(おれの田舎は北海道だ)にはお笑いの芝居がたくさんあって、そのなかでもエノケンってひとが日本一の人気だった。 
じいさんはエノケンが大好きで、学校を途中でやめて、 
エノケンに弟子入りした。 
舞台にも出た。 
じいさんは何十年かエノケン一座にいたが、エノケンが死んでしまったので、それからずっと紙芝居屋をしている。 

じいさんはそれから必ずその「エノケン」の歌を歌った。 
「だーんな、飲ませてちょうだーいな、けちけちしなさーんな、駆けつけ三杯ー」。 
駆けつけ三杯なんて言葉の意味はもちろんおれらにはわからなかった。 

そのうちにおれは引っ越したんだが、数年前、用事があって数日間その街に戻ったんだ。 
親の用事だったから、おれはすることがなくて、田舎だから見るものもないので、ぶらぶら散歩していた。 
二十年ぶりの田舎だったから懐かしかった。